日本のバイク業界は、1980年代にバイクブームが訪れたものの運転マナーの悪さや排ガス問題が解決されず、徐々に販売台数が伸び悩み、未だに業界全体で低迷が続いているという状況だ。
一方で、すさまじい経済成長を見せる東南アジアを中心に、バイクを活用した新しいビジネスが人気を集めている。それが「バイクタクシー」である。
一見、目新しいことのように思えないかもしれないが、なぜ近年になって流行し始めたのかを探っていく。
バイクタクシーとは?
バイクタクシーとは、名前の通り「タクシーのバイクバージョン」である。
インドネシアでは、バイクタクシーのことを一般的に「Ojek(オジェック)」と呼ぶので、頭の片隅にでも入れておくと良いだろう。
バイクタクシーは、日本ではまったくと言っていいほど聞き慣れない(見慣れない)と思うが、実はインドネシアやベトナムのような発展途上国と呼ばれるアジア地域では、昔からバイクタクシーというビジネスが曲がりなりにも成立していた。
国内スマホ利用者のうち3人に1人がアプリをダウンロード済み
近年、インドネシアをはじめとしたアジア各国へのスマホの普及、専用サービスの出現により、バイクタクシーの配車が手軽にできるようになったことで爆発的に利用者が増え、現在でもその勢いはとどまることを知らない。
インドネシアの「バイクタクシー配車アプリ」を提供しているGojek社は、2015年1月にアプリ配信してから、2年近くで3,000万ダウンロードを達成し、インドネシアの国内スマホ利用者の3人に1人はアプリをこのダウンロードしていることになる。
今では電子マネー決済も導入されており、わざわざ支払いで小銭を出したりしまったりする必要もないので、非常に使い勝手が良いサービスなのだ。
バイクタクシーで最も勢いのある会社「Gojek社」とは?
※出典:https://www.indonesiasoken.com/info/transportation-services/
バイクタクシーの配車サービスで、今最も勢いがあるのがインドネシアのGojek社だ。
なんと、Gojek社の社長Nadiem Makarimさんは、若干26歳でこの会社を立ち上げたというから驚きである。
日本の大手バイクメーカーのホンダも、低調な二輪業界においてバイクタクシーには大きな可能性を感じている。
ホンダは、2016年12月に東南アジア各国でタクシーの配車サービスを提供するGrab社(シンガポール)と「東南アジアシェアリング領域における協業を検討する」という覚書を締結した。
世界的にも日本製バイクのクオリティは非常に高く評価されているため、バイクタクシーの普及に合わせて自社のバイクをアジアに広げていこうという狙いが見える。
アジア各国でバイクタクシーが流行っている理由
理由① 料金が通常のタクシーの3分の1程度で利用できる
5km地点での料金 | 備考 | |
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通常のタクシー | 約300円 | 初乗り1kmで約60円。 1kmごとに約55円が加算される。 |
バイクタクシー | 約80円 | 距離によって金額は変動する。 |
※参考:https://www.jtb.co.jp/kaigai_guide/report/ID/2017/02/bali-taxi.html
インドネシアのブルーバードタクシーを利用すると、初乗り1kmで7,000インドネシアルピア(1インドネシアルピア = 約8.5円)、その後1kmごとに6,500インドネシアルピアがかかる。
それに対し、バイクタクシーは5kmでたったの80円程度+チップ代しかかからないので、通常のタクシー料金の3分の1ほどで利用できるのだ。
「バイクタクシー配車アプリ」を使えば初心者でも安心
料金の支払い方法 | |
---|---|
オジェック (通常のバイクタクシー) |
現金での支払い。 乗車前に運転手との金額交渉が必要。 |
Gojek、Grabなど (バイクタクシー配車サービス) |
現金もしくはアプリ上での支払いも可能。 アプリ上に表示されている金額を支払う。 |
※参考:http://wwj.world/2016/02/indonesia-transportation/
実は、GojekやGrabのような「バイクタクシー配車サービス」は、インドネシア語を話せないような旅行者にも非常に役立つサービスである。
そもそも、バイクタクシーに明確な料金表というものは存在せず、オジェックを利用する場合は、乗車前に運転手と料金交渉を行う必要があった。
インドネシア語が話せない人がオジェックを利用しようとすると、言語がわからないことを良いことに通常より高い金額を要求されてしまうことも少なくなかったのだ。
しかし、GojekやGrabのようなバイクタクシー配車サービスが現れたことにより、アプリ上に表示されている金額を現金もしくはアプリ上で電子マネー決済するだけで良くなった。
インドネシア語が話せないバイクタクシー初心者にとっては非常にありがたいサービスなのである。
また、インドネシアでは、バイクタクシーと比べるとバス(20~50円/回)や電車(20円/回)のほうが料金は安いが、日本のように時刻表通りに来ないと考えておいたほうが良い。
「時間がなくて急いでいる」という人は、迷わずバイクタクシーを利用したほうが良いだろう。
理由② 車の渋滞がひどい
以前から、発展途上国の都市部において、交通渋滞が深刻な問題として取り上げられている。
ジャカルタ | 東京23区 | |
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国土 | 661.5 km² | 619.0 km² |
人口 | 約 960万 人 | 約 921万 人 |
車の所有台数 | 4,399,595 台 | 2,092,972 台 |
※参考:http://wwj.world/2016/04/indonesia-traffic-jam/
上の表を見ていただくと分かる通り、ジャカルタは面積も人口も東京23区とさほど変わらないにもかかわらず、ジャカルタでの車の所有台数は東京23区の約2倍以上もある。
道路の整備状況についても、ジャカルタより東京23区のほうが明らかに整っているため、いかに渋滞が起こりやすいかは想像しやすいだろう。
しかし、車でなくバイクであれば狭い裏道もスイスイと走ることができるため、車で移動するよりも圧倒的に時間の短縮を図ることができるのだ。
理由③ 治安の改善により、女性や子供の利用者も増えてきている
※出典:https://japan.cnet.com/article/35077949/
近年では、アジア各国における治安が徐々に良くなってきているのも、バイクタクシーが盛り上がっている要因と言える。
以前までは、バイクタクシー利用者のほとんどが男性であった。
その理由は「知らない男性のバイクに乗るのは怖い」「(宗教の関係で)家族以外の男性に触れることができない」など、女性にとってバイクタクシーはハードルが高いサービスであったからである。
しかし最近では、貸出用ヘルメットできれいなものを使えたり、女性専用のバイクタクシーサービスが開発されたこともあり、徐々にではあるが女性も気軽にバイクタクシーを利用できる環境が整ってきている。
理由④ バイクタクシー以外にも「デリバリー」「おつかい」も頼める
例えば、Gojek社が提供するアプリでは、人を目的地まで運ぶ「タクシー業務」以外にも、出前を家まで運んでくれる、スーパーで買い物を代行してくれる、といったサービスも展開している。
日本では信じられないような光景ではあるが、実際にこれらのサービスがアジアでは利用されているのだから驚きである。
バイクタクシーは「人の温かさ」がベースにあるサービス
※出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20160826-00061507/
バイクタクシーが流行るためには、必然的に運転手のマナーやモラルといったものが非常に重要となってくる。
つい最近、バイクタクシーに関するニュースで、このような記事を発見した。
内容は、「ベトナムでバイクタクシーの運転手をしていた青年が乗せていた客が、約160万円の大金をバイクのメットインスペースに入れたまま立ち去ってしまった。若者はその大金を持ち去ることなく警察に届けたところ、無事本人の元へ届いた。」というものだった。
その心優しき若者は、決して経済的に余裕があるわけではないが、なぜ大金を本人のもとへ届けたのかと聞かれると、「この大金を忘れた人がどれほどの苦境に立たされるかを考えた」と答えたという。
「困っている人の役に立つ」というのが、バイクタクシーのみならずビジネスの本質である。
今は低調な二輪業界ではあるが、バイクタクシーのような明るいニュースがこれから増えていくことを期待したい。