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【なぜVMAXというバイクが生まれ、人々に愛されたのか】

ライター名
バイク比較 (ばいくひかく)
サポート&ライター
バイク比較.comのサポートとライターを担当しています。

2017年8月、当時世界中をある衝撃のニュースが駆け巡りました。そのニュースとは、ヤマハのフラッグシップモデルである「VMAX」が生産終了されるという悲しい報せ。その情報は、当時日本中の、いや世界中のVMAXファンを心底落胆させました。

けれど、そんな辛い出来事から、はや数年が過ぎようとしています。時代の流れの中、やむなくVMAXは生産中止となりました。しかし、鮮烈なその記憶は現在も消えません。 今、改めて日本のバイク史に燦然と輝いたヤマハのモンスターバイク、VMAXの足跡を振り返ってみます。

1.VMAX知られざる開発秘話

① VMAXその鮮烈なデビュー

VMAXは1985年(昭和60年)、排気量1200ccの大型バイクとして世界にデビューしました。もともとはアメリカのみで販売を予定していたので、現地における徹底した市場調査が行われました。

その結果、「強いアメリカ」、そして「V8エンジンの自動車」、「ドラッグレース」などをイメージした一つのビッグバイクが開発されます。アメリカ人好みの「でかくてパワフル」。加えて、他を寄せ付けぬ「圧倒的な存在感」をコンセプトに、初代VMAXは生み出されます。

さらに、それから4半世紀経った2008年(平成20年)、排気量を1700ccに、各スケールも大幅にパワーアップした2代目モデルが登場したのです。

当初VMAXは、ヤマハがアメリカ市場をターゲットに開発した、輸出専用モデルのビッグバイクとして誕生しました。エンジンも当時としては圧倒的パワーを誇る「ヤマハベンチャーロイヤル」の水冷4ストローク70°V型4気筒DOHC1,198cc。重量感のある車体はアメリカンクルーザーとスポーツネイキッドを融合させた、他に類を見ない斬新なモデルです。

初代VMAXの最高出力は145PS。最大トルクは12.4kg/mをたたき出し、ゼロヨンで10秒台をクリアすることをヤマハは目標としました。1980年代、アメリカ市場を席巻していたハーレーを動力性能面ではるかに圧倒します。重厚感のあるスタイルと相まってVMAXは、発売と同時に日本だけでなくアメリカの二輪業界に強烈なインパクトを与えました。

②「VMAX」デザイン開発者と逸話 

初代VMAXのデザインは、日本工業デザイン界の巨匠と呼ばれた「滎久庵 憲司」(えくあん けんじ)氏(故人)によるものです。

滎久庵氏と言えば、東京都のシンボルマークやJRA(日本中央競馬会)のロゴ、そして秋田新幹線「こまち」をデザインしたことで有名です。滎久庵氏は、言わば日本工業デザイン界に一時代を築き上げた、最大の功労者にして優秀なデザイナー。そんな彼の代表作はキッコーマンの「卓上醤油瓶」。

滎久庵氏がデザインしたキッコーマンの卓上醤油瓶は爆発的に大ヒット。醤油と言えばキッコーマンの卓上醤油瓶を思い浮かばせるほど、滎久庵氏デザインの醤油瓶は消費者の間に浸透しました。

滎久庵氏のデザインに傾ける情熱は、モンスターバイクと呼ばれたVMAXの中にも脈々と受け継がれています。その証拠に、初代VMAXはデビューから2007年まで一度もモデルのデザイン変更をせず、VMAXの姿を全世界に定着させました。

2008年、2代目モデルが発売されるまで初代VMAXは、累計93,196台もの数が生産されています。その背景には、工業デザイナー「滎久庵憲司」の熱い魂が込められていたのです。

2.メカニズムとその構造

①圧倒的パワーと驚くべき加速性能

VMAXの圧倒的なパワーの根源が、「Vブースト」と名付けられたエンジン燃焼システムです。VMAXと言えば「Vブースト」と呼ばれるほど、その力と強烈な加速性能は多くのライダーを魅了しました。

ところで、VMAXの開発中、一つのある有名な逸話が残されています。 設計段階で、日本側の研究者は「何馬力が必要か」と現地スタッフに尋ねます。その問いに対してアメリカ側からは「出せるだけの最高の出力が欲しい!」と要求されました。

とにかく、VMAXに求められたのは、既存のスマートなバイクにはない圧倒的なパワーと存在感でした。それを可能にしたエンジンシステムこそ「Vブースト」です。

キャブレターの下部にある「インテークマニホールド」の前後を「バタフライバルブ」が繋ぎます。エンジンの回転数が6,000rpmを越えた時点でバルブが開き始め、やがて8,500rpmで全開に。

このシステムによって、エンジン1気筒当たりのツインキャブレターが、大量のガソリン混合気をシリンダーに送り込みます。その結果生まれるのが、VMAXの爆発的な加速力とパワーです。あまりの加速感に、多くのライダーがアクセル全開をためらいました。

この驚くべき「Vブースト」のメカニズムこそ、VMAXを「モンスターバイク」と言わしめた所以です。アメリカンタイプで、総重量が311kgもある重厚なビッグバイクVMAX。 けれど、ゼロヨン加速において、4輪スポーツカーにも決して引けを取らない、その「強力な加速性能」はこうして生み出されました。

②迫力あるエアスクープとデザイン

VMAXが与える強烈なインパクトは、その独特で巨大なエアスクープ(空気取入口)の迫力あるデザインがもたらしています。

むき出しのマッチョなV型4気筒エンジンの中央から、シルバーに輝いて曲がるエアスクープ。車体の半分をエンジンが占めているようなど迫力なレイアウトは、左右に張り出した銀色の空気取入口によって一層引き立てられています。

また、当時としては極太(150ミリサイズ)のリアタイヤがさらに迫力を増し、左右2本突き出したメガホン型の銀のマフラーが斬新です。さらに飽きの来ない小口径のシングルライト、薄型で幅広のダミータンクがアメリカンクルーザーとしての威厳を放っています。

初代モデルが登場した当時、その鮮烈なデザインがマスコミなどにも度々取り沙汰されました。けれど、発売から四半世紀を経た現在でも、VMAXの独特なフォルムとフレームの美しさは全く色褪せることがありません。

3.各モデル(型式)の特徴と仕様変更の詳細

1985年に初代モデルが発売されて以来、30年以上に渡ってその高級感と存在感で他を圧倒し続けたVMAX。VMAXは30年の間に5回のマイナーチェンジと、2009年に大きなフルモデルチェンジを一度行っています。

1985年、輸出車両として発売が開始された初代VMAXは、「カナダ仕様」が最もパワーの大きなモデルです。そこで2017年時に生産された同じカナダ仕様の最終モデルと比較してみると、そのスケールの違いが一目瞭然です。

初代VMAXをさらに詳しく分類すると、国内仕様と北米仕様の2タイプが販売されていました。国内仕様は1990年から2000年の間、カナダ向けなど北米仕様は1985年から2007年の期間生産されていました。

そして、ついに2008年6月5日、欧米向けにフルモデルチェンジされた2代目VMAXが登場したわけです。四半世紀ぶりとなるモデルチェンジでは、VMAXの基本コンセプトとアイデンティティを継承しつつも、当時としては下記の最新技術が随所に投入されました。

①新型設計V型4気筒エンジンの採用

より優れた加速感と強力なクルージング性能を獲得させるために、新たに設計されたV型4気筒DOHCエンジン。エンジンのバンク角を70度から65度に変更し、排気量を1,679ccまでアップしました。

またカム軸周りの小型化を促進し、コンパクトなエンジン燃焼室を実現。内部にはアルミ鍛造ピストンと高精度のFSコンロッドを採用し、耐久性と信頼性を高めました。

②最新の電子制御YCC-Iの採用

「プレミアムモデル」とも呼ばれた新型VMAXでは、伝説の「Vブースト」を廃止し、より良好な吸気システムであるYCC-I(ヤマハ電子制御インテーク)を採用。同時にYCCT-T(ヤマハ電子制御スロットル)を採用する事で、リニアなスロットルレスポンスを実現しました。

③剛性を高めたオールアルミフレーム

1985年発売の初代モデルの最大の弱点はフレームの弱さです。圧倒的な加速感とパワーにフレームの剛性が耐えきれず、ライダーの多くがヤマハ本体に対して「リコール」を要求したほどです。

プレミアムモデルに採用された新設計のフレームはオールアルミ製。しかもメインフレームには重力鋳造中空材を採用し、リアフレームはCFアルミダイキャストと押出材の溶接構造で組み立てました。特に耐久性に欠けていたメインフレームは「肉厚最適化」を各所に施し、初代モデルとは比較にならないほど、格段に向上した剛性を達成。

④新開発3ポジションABSの採用

ブレーキシステムにも大幅な変更を実施。優れた制動力を実現させるため前後にウェーブディスクを装着。特筆すべきは、リニアソレノイドバルブを取り入れた、新開発3ポジションABS(アンチロックブレーキシステム)の採用。路面や運転状況に応じた滑らかで最適な液圧コントロールを実現し、違和感の少ないナチュラルなブレーキフィーリングを達成させました。

⑤新世代スタイリング

初代モデルの圧倒的な存在感を受け継ぎながらも、より洗練された新世代のスタイリングを実現。巨大な吸排気フローをタンク脇に配置することで、スタイリッシュさとマッチョなパワフル感を感じさせます。さらに、エアインテークには熟練職人による手作業のバフクリア仕上げを施すなど、より高品質感を醸し出させています。

これらの新設計システムの他にも、よりパワーを増したエンジンと加速性に対応した前後サスペンションの改善、スリッパークラッチの採用とシャフトドライブの改良等を新型VMAXには施しました。もちろん、一目見て分かる個性的な前後のタイヤも、今回専用に開発されたものです。

4.生産終了の秘密と反響

①VMAXを生産終了に追い込んだもの

2018年8月、ヤマハのフラッグシップモデルであったVMAXにもいよいよ生産終了の時か訪れます。およそ32年間にわたって製造されてきたヤマハの名車VMAX。それを生産終了に追い込んだのは、2016年10月に施行された排ガス規制「EURO4」です。

別名「平成28年規制」は従来の規制にも増して、排出ガスにおけるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)の含有量の削減を求める厳しい規制でした。

VMAXは2008年、前回の排ガス規制に適合するよう、排気量1679CCの新型Vユニットエンジンを搭載して生まれ変わりました。特に、ニューモデルには電子制御スロットルとインテークのテクノロジーが組み込まれ、今後もVMAXは長期間継続して生産が続くものと誰もが信じていたのです。

けれど、そんなヤマハの企業努力も、さらにはユーザーの熱い支持も空しくVMAXはついに終焉の時を迎えます。言い換えれば2016年のEURO4が、それほど厳しい排ガス規制であったと言うわけです。

ただし、フラッグシップモデルの生産終了を、ヤマハもただ指をくわえて見ていたわけではありません。一時期VMAX開発に携わったプロジェクトチームは、VMAXを厳しい排ガス規制「2016年EURO4」にも対応したモデルに、改めて作り替えようと検討します。

けれど、結局その夢は叶いませんでした。圧倒的なコストアップがその原因です。2代目モデルを排ガス規制「EURO4」に対応させるためには、排出するガスを更に抑えるための「三元触媒」を組み込んだ新たな排気システムの開発が避けて通れません。

ところがこの三元触媒には、極めて高価な「プラチナ」や「ロジウム」が必要でした。既存のVMAXに組み込むには、大幅なコストアップがのしかかります。ただでさえ新車価格が237万円もする高級バイクを、排ガス規制をクリアさせるために更に値上げすることはヤマハも結果的に断念したのです。

また、年々新たなテクノロジーを導入された優秀な新型車が登場する中で、既存のモデルにコスト高の排ガスシステムを組み入れても、全く採算が取れない恐れもありました。進化し続けるオートバイの歴史の中で、ヤマハもVMAXを手放さざるを得なかったというわけです。

②生産終了とユーザーの反響

厳しい排ガス規制「EURO4」によって、ヤマハの至宝であるVMAXは、その輝かしい歴史に幕を下ろしました。けれど、その歴史と伝統は、生産終了後の現在も脈々とバイクユーザーの心に受け継がれています。

VMAXは、2017年最後の生産分である新車120台が早々と完売されると、メーカーによる新車販売は終了しました。しかし、それでVMAXの歴史が終わったわけではありません。生産終了によってVMAXの付加価値は更に高まり、すでに中古車市場に出回っていた旧型モデルの価格さえも押し上げました。

生産終了して尚、桁外れのパワーとそのボディサイズ、圧倒的な加速力は、テクノロジーが日々進化している現在でも、熱狂的に支持するユーザーにとって羨望の的です。マッチョで非日常的、かつ洗練されたスタイル。そしてその群を抜いた存在感に魅了されている全世界のユーザーが、未だにVMAXへのあこがれから覚めません。

それほどにVMAXが社会に与えたインパクトは強烈で、単なるオートバイというカテゴリーを遙かに超え、一つの伝説(レジェンド)、そして輝かしい「金字塔」になっています。

5.VMAXの登場によるバイク業界の変化と進化

1985年当時、初代VMAXの登場はバイク業界に一大センセーションを与えました。主な内容は次の通り。

①VMAXとハーレーダビッドソン

VMAXが登場するまで、欧米各国の高速道路や大陸間を結ぶ主要道路を突っ走っていたビッグバイクと言えば、バイク乗りなら誰もが一度は跨がってみたいと心に秘めている「ハーレーダビッドソン」。1903年、アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーに生まれたバイクメーカーが生産するビッグバイクです。

世界恐慌を生き残ったアメリカを代表する企業の一つである「ハーレーダビッドソン」社は、「チョッパースタイルオートバイ」のベースモデルを開発したことでも有名。ハーレーは伝統的に、700cc以上の重量級で空冷エンジン搭載のクルーザーバイクを生産するメーカーの一つでした。

ハーレーダビッドソンのビッグバイクを一躍有名にしたのが、1969年上映の映画「イージーライダー」です。ピーター・フォンダとデニス・ホッパーというアメリカを代表する二大俳優が主演し、興行収入はおよそ6,000万ドルとも言われている伝説のシネマ。この映画の中で使用されていたのが、ハーレーダビッドソンの1965年モデル「パンヘッド」エンジン搭載の1,200ccチョッパーです。

その衝撃の結末と、アメリカ大陸を縦横無尽に走り抜けるハーレーダビッドソンの雄姿に、アメリカはもちろん全世界のオートバイユーザーが強烈なインパクトを与えられました。圧倒的なスタイルと心地良いエンジン音、体に響く振動は、多くのライダーを魅了したのです。

「ロングクルーザーと言えばハーレーダビッドソン」と、一般社会でもそう定説になるほど、ハーレーダビッドソンの存在感は他のオートバイを圧倒しました。

けれど、そこに登場したのが、ヤマハが世界市場についに打って出た「ハイテク装備」満載のVMAX1,200ccです。

②モンスターバイクVMAXの登場

ロングクルーザーの名前をほしいままにしていたハーレーダビッドソン。その独特のスタイルと迫力あるエンジンの躍動感がファンを魅了し、現在でも尚、アメリカンタイプオートバイの代名詞と言えます。

けれど、その反面、車両本体の価格は今も高価であり、癖のあるハンドリングや故障がちなエンジンシステムなど、性能面での課題が多かったのも事実。1980年代当時でも、日本製のオートバイに比べると品質面で劣っていたのは否めません。

そんな時に、ヤマハUSAが中心となり、その叡智を傾けて開発したビッグバイクVMAXが登場しました。もともとVMAXが国内に先駆けて北米輸出モデルとして先行販売されたのも、相当にハーレーダビッドソンを意識しての事。

しかも、そのデビューは衝撃的としか言いようがありません。総排気量1,198cc、マッチョなスタイルに水冷4ストローク70°V型4気筒エンジンは、最高馬力が海外モデルで145PS、最大トルクは17kgf-mを叩き出しました。

ハーレーダビッドソンをはるかにしのぐビッグスケールのオートバイでありながら、「ゼロヨン」を10秒台で疾駆するほどの桁外れの爆発的なパワー。そして、Vブーストシステムによる怒濤の加速感。

当時として世界最強のエンジンを持ったVMAXの魅力は、たちまち北米のみならず全世界のバイク乗りの心を鷲づかみにしたのです。

③燃費よりもパワー、そして加速感

初代VMAXの燃費は、高速クルージング時で15~16km/L、街乗りではせいぜい11~12km/L、Vブーストを使用した加速時では8km/L以下。けれど、開発当初から低燃費という概念は、スタッフの頭の中に微塵もありませんでした。

目標とする馬力設定の検討中、アメリカ側スタッフから「上限無し。馬力は出せるだけ出せ!」という、現代では到底考えられない要求が出されたエピソードはあまりに有名です。 そのために初期モデルでは、専用設計かつ最新のボディフレームでありながら、爆発的なエンジンパワーと加速感に、車体が悲鳴を上げてしまったのが実態です。

開発当初はアメリカ国内のみでの発売を予定していたVMAXは、アメリカ人好みの「強いアメリカ」、ど迫力で他の追随を許さないパワーと迫力を兼ね備えたモンスターバイクを目指して、この世に登場しました。

VMAXの誕生によって、全世界に「ビッグクルーザーVMAX」のステイタスが確立しました。高性能、高出力のモンスターバイクでありながらも、初代モデルは価格が150万円を切るほど低価格で販売されたのも功を奏しました。

それまでアメリカン型のビッグバイクと言えば、その代名詞であったハーレーダビッドソンの一人勝ち。それと肩を並べるほどの、いや、それをはるかに凌ぐ存在にVMAXはたちまち登り詰めてしまったのです。

6.アニメや映画など、他業界に与えたVMAXの影響力

その強力なVMAXのインパクトは、現実世界だけでなく様々なジャンルに影響を及ぼしました。特に、日本が世界に誇る数多くのアニメーションの作品中に、VMAXは何度も登場しています。有名な作品はこちらです。

①コミック「スプリガン」

漫画「スプリガン」は1989年に「週刊少年サンデー増刊」に発表された作品。原作「たかしげ宙」、作画は「皆川亮二」。1998年、東宝よりアニメーション映画化され公開されました。

超古代の人々が残した秘密の遺跡を封印する特殊組織「アーカム」。そのトップエージェントである「スプリガン」御神苗優の愛車としてVMAXは登場します。モデルタイプはVMAXの初期型です。

②アニメ版「Fate/Zero」セイバー

「Fate/Zero」の原作は、2011年1月、TYPE-MOONから発売された伝奇小説。著者は虚淵玄、キャラクターデザイン・イラストは武内崇が担当。同年10月からテレビアニメとして放送されました。

主人公「衛宮切嗣」は「セイバー」のサーヴァントを召喚し、世界平和を目指すため4度目の聖杯戦争に身を投じます。この時セイバーが颯爽と乗り回している愛車がVMAXです。 「Fate/Zero」は2011年に制作された作品なので、VMAXのモデルは2代目モデルです。

③アニメ「デュラララ」セルティと愛車

原作は、成田良悟による日本のライトノベル。イラストをヤスダスズヒトが担当。電撃文庫より刊行されたアクション・サスペンスです。2010年1月から6月まで、MBS放送でテレビアニメとして放映されました。

舞台は東京池袋。都会の非日常生活にあこがれる少年「竜ヶ峰帝人」は来良学園に入学するため上京します。上京初日、帝人はそこで都市伝説と噂されていた主人公「首なしライダー」を目撃。その正体は「デュラハン」と呼ばれるアイルランドの女性の妖精である主人公「セルティ・ストゥルルソン」。このセルティの操る馬がバイクに変化し、VMAXの姿を現します。

④劇場版「人造人間ハカイダー」ギルティ

1995年4月、東映スーパーヒーローフェアの一環として公開された映画が「人造人間ハカイダー」。原作は石ノ森章太郎。彼の生前最後の東映特撮ヒーロー作品です。キャッチコピーの「正義も悪もいらないぜ!オレの名はハカイダー!」は当時子供達の中で流行しました。

もともとテレビの人気アニメーション「人造人間キカイダー」の悪役として登場していたハカイダー。彼を改めてアクションヒーローの主人公として活躍させたアニメです。この劇中でハカイダーが跨がっている黒のモンスターバイクこそVMAX。ダミータンクやテールに飾り付けは施されていますが、そのV型エンジンとフロントフォークの形からVMAXをベースにしたスーパーバイクであることが一目瞭然です。

これらコミック漫画やアニメーション、特撮映画をはじめとして、VMAXは様々なシーンに登場しています。大人気ゲームソフト「ファイナルファンタジー7」に登場する「クラウド」が操っているオートバイ「ハーディ=デイトナ」もその形状からVMAXがモデルとされています。

7.VMAXと海外の反応

1985年、北米で初めてVMAXが発売された時、現地のユーザーから次のような様々な反響がネット上でわき起こりました。

 ゼロヨン10秒台はポルシェ911よりも速い、とてつもない化け物バイクだ。  まるでVMAXは「巡航ミサイル」みたいなモンスターバイクだ。  フロリダの同僚は55マイル(88km/h)の道で155マイル(250km/h)出して捕まった。また免許を取り直すのにかなりのお金がかかったらしい。  実に素晴らしい外観だ。ぜひ一台欲しい。

こうした好意的な意見が出た一方で、やや批判的な意見もSNSに書き込まれます。

 初心者には辛いバイクだな。ハンドリングが重いし、コーナーも曲がりにくい。経験豊富なライダーじゃないと乗りこなせないバイクだ。  やっぱり俺はハーレーが一番。  股間を燃やすほどのエンジンの熱さ。これが嫌いな最大理由。

このようにVMAXに対する反響は日に日にヒートアップし、その注目度はさらに増していったようです。また、VMAX生産の終了が発表された現在まで、日本国内は言うまでもなく、海外でも熱狂的な一部のファンから、その復活を待ち望む声が度々巻き起こっています。

8.VMAXは、例えるなら「ビッグモンスター」だ

一度でもVMAXのスロットルを握ったことがあるユーザーなら、そのとてつもない加速感と力強さに、誰も異論はないでしょう。腹に響く重低音なエンジンの響き。スムーズなアクセルワークで、瞬く間にシンプルデザインのスピードメーターは、軽く100km/hを超えます。

ボディの重さが逆に車体の安定感を生み出し、高速巡航性能は申し分なし。エンジンが6,000回転に達するといきなりVブーストシステムが作動を開始し、8,500回転で加速性能はMAXになります。振り落とされてしまいそうな加速感に、慣れるまでは必死にしがみつくような感覚です。

「決してフルスロットル出来るようなバイクじゃない。まったくモンスターバイクだ!」と噂された所以がそこにあります。

驚くべきトルクと安定感

VMAXの安定性は、低速の街乗りでもいかんなく発揮されました。それを支えたのが初期型で12.4kgf-m、2代目が15.1kgf-mの最大トルクです。しかし、乱暴なアクセルワークをすると、たちまち後輪がスリップし、路面に黒い瘢痕を残すだけでなく、前輪がドリフトしかねません。それほどピーキーで、凄まじいトルクを持ち合わせていたのがVMAXです。

乾燥重量254kg(2代目311kg)の車体は、スタンドアップするにも相当な力とコツを要しました。間違って車体をよろめかせたりすれば、支えるためにその重量の半端ない重さに全身が震えます。

けれど、VMAXはいったんエンジンが点火され、公道を走り出してしまえば驚くほどの直進性と安定性を発揮します。パワフルで安定感があり、とりわけ直進性が飛び抜けていたために、VMAXはよく「曲がれないオートバイ」と揶揄されることもありました。

特に、高速クルージング時の巡航性とその安定感は抜群。VMAXは、北米など広大な大陸間移動を目的に製造されたモンスターバイクです。そのフィーリングは、高速走行時にこそ十分発揮されるのだという事を実感させられるでしょう。

高速道路の上でVMAXは、あたかも水を得た魚のように、しなやかで生き生きと、そして俊敏に走り続けてくれます。ロングクルーザーとしてのVMAXの本領発揮の瞬間です。

まとめ

VMAXのユーザーになることは、当時のバイク乗りにとって一種の「ステイタスの証」でした。

まず、難関の自動二輪限定解除の免許がなければ、購入しても公道を走らせることさえ出来ません。また二代目モデルに比べれば、割合購入しやすかったと言われている初代モデル。しかし、それでも当時新車で購入するには、ノーマルで軽く百数十万円かかりました。決して安い買い物ではありません。

そうした高価な二輪車ではありましたが、VMAXは他のオートバイでは味わえなかった不思議な感動や高揚感を感じさせてくれたのも事実です。

遠いあの日、ヤマハの正規ディラーから陸送されてきたピカピカの我がVMAXは、カナダ仕様の限定版の逆輸入モデルNo12。タンクの色は深いワインレッドで、燃料キャップの上にはシルバーのオリジナルエンブレムが刻印してあります。

荒馬のような巨体でありながら、足つきの良さは抜群で、先行モデルのFZX750ccの精神を彷彿させてくれました。イグニッションキーを回すと、瞬間小気味の良い始動音。そして、たちまち「ヴォン」という重低音の響きが全身に染みわたります。

この感動は、終生忘れないでしょう。VMAXは、まるで懐かしい旧友のような、それでいて信頼の置ける「無二の親友」のような安心感と至福の時間を与えてくれました。

生産が終了してから早数年。現在では新車のVMAXに巡り会うのは至難の業です。けれど、中古車市場を丹念に検索すれば、もしかすると思いがけない逸品に出会うことが出来るかもしれません。諦めずに、この「稀代の名車」である「YAMAHA VMAX」を探してみるのも、きっとまんざらじゃありませんよ。